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【ベルセルク考察】フェムト(グリフィス)は「蝕」のとき、なぜキャスカを陵辱したのか?(2800字=約4分で読める)

 前回、「一見完璧人間のグリフィスはガッツに対し、憧れや恐れがあるのでは?」にて劇中のグリフィスの言動をもとにその人物像を考察した。今回はそれを踏まえ、グリフィス(フェムト)は蝕の際にキャスカに対し、なぜあのような蛮行に及んだのか考えてみたい。

 

目次

 

 

グリフィスの女性観とは?

 

男を温めるのは女の役目だ

ベルセルク 4巻』より

 ガッツを一刀のもと斬り(突き)伏せたあと、手当てされたガッツを温めるためにキャスカに添い寝を命じたことを、ジュドーがガッツに語った場面での台詞である。

 このときキャスカは物理的にガッツを暖めていたわけであるが、グリフィスが女の役目といったのは何も物理的な意味だけではないだろう。グリフィスの女性観が端的に表れていて大変興味深い。
 同時に、グリフィスがキャスカのことを「女」として認識し、そう扱っていることも分かる。

 

 

 

グリフィスにとってのキャスカとは?

 

 先に挙げたとおり、グリフィスがキャスカを女として認識し、扱っていることは確かではあるものの、彼女個人にどのような感情を抱いていたか推察するための材料は非常に少ない。

 拷問を受けて再起不能の身となって助け出されるより以前に、鷹の団の団長としてではなく、一個人としてキャスカと「対話」しているような場面がほとんどないのだ。

 強いてあげるのなら、ここで挙げたエピソードだろうか。しかし、キャスカだったからこのようなことを語ったのか、たまたま居合わせたのがキャスカだったからそうなったのかは判然としない。
 また、キャスカとガッツが崖下に落ちた際、貴族たちの反対を振り切って捜索隊を出すことを決断した際に、キャスカとガッツのことを鷹の団の要であり、二人を失うわけにはいかないと言っている(7巻)が、何せあのガッツを含んでいる。純粋にキャスカのことだけをどう思っているのか判断するには難しい。

 一方、自力で立つことさえもできなくなってからは、ずいぶんとキャスカを意識しているように見える場面がある。

 グリフィスを救い出し、城から逃げおおせる際に怒りに任せて兵を切りまくり、返り血に塗れた鬼気迫る様子のガッツに対し、シャルロット王女が「…私 あの方恐い…」とピピンに背負われたグリフィスに寄り添う。
 それを受けてキャスカはガッツの顔を汚す返り血をきれいに拭いながら、「血ぐらい拭え 姫様が恐がってる」と言うのだ。
 その様子にグリフィスは驚いたように、また、衝撃を受けたように目をみはっている。(10巻)

 その後も、ワイアルドにやられ気絶したガッツを平手打ちしながら、「私を…連れて行くんじゃなかったのか!?」と発破をかけるキャスカの様子を凝視したり、ワイアルドに捕まったキャスカを助けたそうな素振りを見せたり、ガッツに助太刀しようとしてジュドーに窘められ、その身を案じて涙をこぼすキャスカの姿を意味深に見つめたりしている。(いずれも10巻)

 そして、決定的とも言える行動を起こす。

 包帯を替えにきたキャスカが桶に入った水をこぼした拍子に抱きつくのである。

 戸惑い、驚いて押し返そうとするキャスカはグリフィスが震えていることに気がついて、抵抗することを止めてなだめるようにその背に手を置いている。

 このとき、グリフィスはなぜキャスカに抱きついたのだろうか。
 幾通りか考えられるのではないだろうか。

①誰かに側にいて欲しかったが、キャスカならばそうしてくれそうだから
②ガッツへの対抗意識
③後にフェムトの姿でそうしたように、そういうつもりだった
④ガッツを引き止めるため
⑤キャスカを慰めるため(キャスカの震えを止めるため)

 こんなところだろうか。
 確定するには材料が少ないので難しいが、自分は①の「誰かに側にいて欲しかったが、キャスカならばそうしてくれそうだから」の可能性が高いのではないかと思っている。

 そうであれば、冒頭で述べた「男を温めるのは女の役目」というグリフィスの女性観にも一致するし、震えているのも説明がつきやすい。

 また、この後ひとり馬車で駆け出したグリフィスは、投げ出されて意識を失っているあいだにキャスカに介護されながら平穏な暮らしをしている夢を見ている。これもキャスカならばそうしてくれそうという期待か、そうしてもらいたいという願望があったためではないだろうか。

 このときのグリフィスはワイアルドによる一連の追跡劇を通し、かつては仲間を率いる立場であったのに、守られるしかない存在になり下がり無力さを痛感させられているばかりか、再起不能であることも確信しはじめている。ましてや「一見完璧人間のグリフィスはガッツに対し、憧れや恐れがあるのでは?」で考察したような、グリフィスがもともと弱さを抱えている人間だとしたら、そのダメージは計り知れない。見えない先に慄いて震え、「誰かに側に居て欲しい」と思っていてもおかしくないだろう。

 

 

 

グリフィスにとって女性は「寒いときに温めて欲しい存在」

 

 グリフィスには恋慕の情や愛などといった類のものは、存在しないか、あったとしても取るに足らないようなものなのではないかと思う。少なくともフェムトに転生する前の頃は。

 以前、シャルロット王女に「(グリフィスの言う)貴いものとは家族や恋人か」と尋ねられた際も「そういう人もいる」とさらりと受け流しているし(6巻)牢獄から助け出されて逃げる際には、身を挺して自分を守った王女の行動にひどく驚いている様子も見受けられる。

 グリフィスを取り巻く女性にはキャスカの他にシャルロット王女もいるが、ガッツに負けて自尊心を傷つけられ、自分の手中に収めておきたかったもの(ガッツ)も失ったグリフィスは雨に濡れて、やはりシャルロットに温めてもらいに行っている。

 グリフィスにとって女性というものは、心身ともに冷えているときに温めてくれる存在であり、それ以上でもそれ以下でもないのではないだろうか。

 

 

 

フェムト蛮行の裏にあるのは、優越・誇示・劣等感の回避・反撃・支配?

 

 以上のようなことから、グリフィスがキャスカに対して特別な感情があったとは思いがたい。ではなぜ、フェムトはあのような行動に出たのだろうか。

 マレーによれば、人間の動機のうち、心理的欲求は28種類に分類されている。
 それに照らし合わせてみると、フェムトの行いは、ガッツに対して優位に立ちたいという欲求(優越)、驚かせてはらはらさせたいという欲求(誇示)、報復によって敗北感を拭い去る(反撃)、無力であった自分との決別(劣等感の回避)、キャスカへの支配(支配)というようなものが入り混じっての結果ではないだろうか。

だとすれば、さすが「渇望の福王」である。

 

 

 

……疲れてきた。

 本当はそのときキャスカは何を思ったのか、今月末発売の最新号で明かされそうなのでその前に考察してみたい、と思っていたがそこまで行けそうにない。
 あと、先日から一体何をしているのだろう……と、不安になってきた。

 今日はここまで。